もうそれしか覚えていない。

どうして人は記憶を都合よく編集してしまうのだろう。
ワンシーンのワンカットのセリフだけじゃ、事実を正確に思い返すことなどできない。
自分のこころを守るために、過去は眠っている間に上書きされていく。
すごく傷ついたような気になって、そうすれば楽になって、それはとても愚かで、しかし、かしこい。

もうそれしか覚えていない。
それは声であったり、名前であったり、時間であったり、季節であったり。

両手にあるものさえ取りこぼしてしまいそうな日々にあって、したたかに生きていく毎日の答え合わせは、多分ずっと先でいい。